#3 中野坂上でホワイトアウト
前回までのあらすじ
目立ちだがり屋の恥ずかしがり屋三井聡は日本大学芸術学部の俳優志望の1年生。
一大イベントの芸祭で目立てず、彼が考えたのは俳優からダンサーへの転身。
しかし、人生初めてのレッスンで彼はクラス途中に気絶をしてリタイアしてしまった。
その姿はまるで湯葉だったとか、、、
湯葉のリベンジが今始まる。
湯葉だって湯がきすぎるとテロンテロンになる様に、急に暑いスタジオで慣れない事をしたので、三井聡はテロンテロンになってしまったのである。
だが、彼に恥ずかしいとかは無かったのである。
むしろ彼のやる気は何処からともなく湧いてきた。
そこである目標を掲げた!
クラス中に気絶をしない事。
#1 で書いた様に彼のスペックのヤバさはここにある。
踊りが上手くなるためとかではない、クラスの最後まで立っていられるかという事だ。
言葉だけ見れば格闘家志望の志しだ。
家に帰り、湯葉とレースのタオルとチャコットを洗濯機にかけた。
回ってる様子は湯葉そのものだ。
彼は次のレッスンが待ちきれなかった。
大音量で流れる聞いたことがないjazzyな音楽は、彼の心身を魅了した。
そして、踊るという事も彼の感性を刺激したのだ。
彼の中に「目立ちたい」と同時に「踊りたい」が芽生えた。
今思うと気絶する程に衝撃的だったのかもしれない。
そして!
2回目のレッスンの日が訪れた。
本日の彼の装備品は
・前回に引き続き安定のチャコットパンツ
(再戦)
・湯葉は降板、代わりに柄は覚えていないがパリッパリの白Tシャツ
(単純に洗濯物ルーティンの関係)
・相変わらずだが、洗面所のタオル
(レースがあったか定かではないが、三井家の水回りで活躍中のやつ)
・失くしても戻ってくる体育館ばき
(犬並みに戻ってきます)
・アミノサプリ
(やはり気絶から救った事への貢献度から再戦が決定)
当時スタジオは中野坂上にあった。
駅から徒歩4分くらいの所にあり、一階がイタリアンで二階が貸しスタジオになっていた。
彼は意気揚々と中野坂上に向かい、徒歩4分の所を早足大股で2分くらいで着いた。
スタジオの扉を開けた。
なんだか、2回目のせいか緊張もなく着替えを済ませ。
クラスが始まるまでの15分間、スタジオのみんなに紛れるようにストレッチをした。
開脚と言えない開脚をして、前屈と言えない前屈をした。
くまのぷーさんの出来上がり。
いや、白いティーシャツだからしろくまだ。
そして、クラスが始まった。
筋トレは前回よりも少しだけ、、、
ストレッチはぷーからしろくまに、、、
ステップは安定のからまり、、、
そして、前回の気絶ポイントであるアームスをゆっくり動かすトレーニングになった。
彼は前回の記憶もあり、少し慎重な面持ちで両腕を45度上げた。
黒いものは遮ってこない。
もう45度!
まだ遮らない
もう45度!!
まだ遮らない
後45度上げれれば天井まで腕を伸ばしきったポーズになる。
これができたら、まさしく万歳だ!!
そして、緊張の一瞬。
もう45度
、、、、
バンザーーーーイ!!!!!
できた!できたのだ!!
三井聡は気絶する事なく万歳が出来たのだ!
まるで冬の厳しい雪山に、白熊が登頂した様な。
あくまで白熊の様な。
本人にしか分からない達成感を得たのだ。
彼は前よりも出来た事に自信を得たのだ。
そして、後はゆっくりアームスを下山させれば良いだけ。
まるで下山する人が周りの景色を優雅に見るように三井は鏡を見た。
まだ初めて二回だが誇りに満ちた彼の顔が鏡に写っていた。
そして、その後に待っていたのがコンビネーション。
要は振付だ。
先生が振りを渡してくれた後に僕達が踊る。
カウントで確認して、音に合わせて踊る。
今でも覚えてるのが、振りを何も覚えれなかった事だ。
何処かで得た知識で振りは足から覚えていくと良いよって言われたのを思い出し、、
彼はひたすら先生と周りの人の足を見た。
(足から覚えるという意味は、今思うとステップを覚えれれば移動とかで周りにぶつからないし、紛れるという意味なんだろうが、、ん〜、、やっぱり全部覚えていった方が良いでしょ💦)
三井聡はひたすらステップを見た、上半身を見ず足を見た。
よーく見ても、よく動かない身体、いや脳。
そして、補足だがコンビネーションがある程度振付し終わったら、グループに分けて踊るのが基本だ。
僕はその時、グループ分けを知らなかった。
先生が僕に1か2を示してくれたと思うのだが、僕は足しか見てない。
そんななか、小休止がありその後先生がグループ1と言った。
僕はそんな事は言われてないので、外で見ていた。
次はグループ2と言った。
僕は違う。
次はグループ1と言った。
僕は違う。
1.2.1の順番なので、違和感を持つべきなのだが、白熊状態の三井にそんな認識は無い。
何故なら慣れないレッスンの中、彼の心身は疲弊しきり、そして、最後にひたすら足を見続けてるのだ。
人生における最高のイレギュラーで彼の脳味噌はほぼストップ状態。
格闘家ならスタンディングダウン
ぷーさんならハチミツ不足
だが、三井聡は気力だけはあった。
グループ1.2.1と外から見てる中でステップだけは覚えようと必死なのだ。
そして次はグループ2
彼はステップを見る
グループ1
見る
グループ2
見る
クラス終了。
闘いの終わりを告げるゴングが静かに鳴った。
チーン
彼の脳味噌、意識はホワイトアウトしたまま終わったのだ。
ホワイトアウトとは雪の乱反射により、天地の区別距離感が失われること。
振付という体験した事の無いデータが脳の中で乱反射、結果1.2の区別が出来ず距離感ならぬ違和感すらキャッチ出来ずに終わったのだ。
だが、しかし!
彼は目標を達成したのだ。
忘れてはならない、彼の目標は
気絶しない事である。
三井聡はゲームに負けたが勝負に勝ったのだ。
褒めて上げたい。
出来ない事への挑戦が人を前に一歩進めるのであり、それはまるでホワイトアウトの様な厳しい状況下である。
大事なのは自分との勝負に勝つ事でもあるような、、、
次回は彼が人生で大きな決断を!